アルバム『ANIMALS』に伴う北米ツアー、1977年5月9日オークランド初日公演・・と言えば、フロイドのファンであれば脳裏に浮ぶ名音源が思い至ると思います。本公演はLP時代からリリースされており、CD創世記にも『IN THE FLESH (Great Dane)』などで早くからCD化され、その後も『Mr.PIG(Highland)』などのアップグレード盤や、近年でSigmaからもレーベル発足当時に『OAKLAND』として登場し、さらに2009年にも『DEFINITIVE OAKLAND 』として注目を集めた、77年を代表するあの公演です。特にこの『DEFINITIVE OAKLAND』は当時出現したマスターカセットからコピーした鮮度の良い1stジェネのオープンリールを使用したうえ、全体的に遅めだったピッチの厳密な補正や詰めの甘かった原音欠落部分のフェイド処理を含めたリマスタリング作業が絶大な功を奏し、まさにDEFINITIVE=決定的なタイトルとしてマニアから高い評価を得たタイトルでした。しかしそれに飽き足らずその後も地道に音源発掘を続けて早6年が過ぎた今年2015年、当Sigmaは遂にこれの真のマスターカセットと接触する事に成功しました。それを最新機材で一切の劣化無く24bit/96khzの高音質でデジタル・トランスファーした究極の77年オークランド初日公演こそが、今週満を持して御紹介する本タイトル『OAKLAND 1977 1st NIGHT』なのです!!サウンドの自然な粒立ち、各楽器が出す音の定位と収まりの良さは『DEFINITIVE OAKLAND (※以降、"既発盤"とします)』も驚くほどでしたが、マスターカセットそのままの音で聴ける本作はその既発盤よりも更に鋭くエッジの立ったものとなっており、サウンドの輪郭がより際立っているため曲表情の移り変わりが大変生々しく伝わってくる事をまず御実感されるでしょう。また今回このオリジナル録音ソースに接して当レーベルも驚いたのは、中音域?低音域に切れの良い重厚なパンチが備わっていた点でした。つまりミッドレンジの一番良い部分が威力のある音でストレートにバン! と出ており、高音域も素晴らしい伸びと艶を備えていたのです。ちなみにマスターカセットは民生用ポータブル録音機" SONY TC-158 "で録音されていますが、本録音は良い条件で録られたアナログ録音機のみが持つ高解像サウンドが最高値でその威力を発揮しているので、まるで両手で音楽を大切に受け止めている様なクールな音が24bit/96khzの優秀なサウンドで出てくる喜びも味わって戴けるでしょう。2009年以降、流出した1stジェネのカセットマスターから幾多のブートレッグが出ましたが、真のマスターからデジタル・トランスファーした本タイトルこそが過去の77年オークランド初日公演の全てにトドメを刺す最終音源となるでしょう。これまでがDEFINITIVEであったとしたら、これは確実にULTIMATEです!既発盤同様に「Sheep」は冒頭が若干欠けたカットインでのスタートとなっていますが、いきなり感じられる音像の近さと鋭さにのっけから圧倒される筈です。表面的にはギターのシャープさがこれまで以上に際立っている事にお気付きになると思いますが、曲中ずっと鳴っているベースのビートもこれまで以上に硬質で弾力のある音として甦っており、リズムに更なる骨格が感じられる様になっているのも特徴です。「Pigs On The Wing Pt. 1」はアコギの響きとロジャーの生声に一本芯が入った音像として現れ、拡散する音色からも気付ける様に空間のプレゼンスもより自然なものとなっています。「Dogs」もマスターテープだけが持つ実りあるサウンドを実感出来る一曲で、途中から入るツインギターの泣きの箇所(3分26秒?)も圧倒的な近さで音が出てビックリされると思います。そしてそこからの弱音のせめぎ合いと泣き続けるギターの運動性、更に恐るべき近さで現れるボーカルラインとキーボードのうねる様な響きの広がり方は既発盤で体験してきた音を一蹴してしまう威力を備えています。「Pigs (Three Different Ones)」は冒頭のツインボーカルから威力のあるサウンドが広がります。この部分は既発盤でも大変良い音で聞けたのですが、本作ではそれ以上に近くて鋭い音像が魅力となっており、ロジャーならではのシニカルな歌唱の魅力が最高値で惹き出されていると言っても過言ではありません。中盤でのギターソロも質感高い音で報告されますが、よく聴くとカウベル(?)の音やドラムの打音もこれまでより明瞭に出ている事に気付かされるでしょう。尚、7分48秒?8分12秒にあるテープの反転処理に起因する音の欠落は既発盤『DEFINITIVE OAKLAND』で採用したものを補填してありますが、この部分だけ音質が若干落ちる様に感じるかもしれません。しかし"DEFINITIVE"と銘打たれたその既発盤ではその欠落部分補填の音像差が全く分からなかったのに対し、その同部分を使用した本タイトルの補填では明らかに音像差が感じられる点に御注目戴きたいのです。つまり既発盤の音が一瞬顔を覗かせるこのシーンで感じる音像差こそが、まさに今回の劣化の無いマスターテープとの差そのものとなっている訳です。勿論、今回も丁寧にクロスフェイド処理とトリートメントを施してありますので、若干の音質差は感じながらも音楽的な損失は全く感じない仕上がりになっています。「Shine On...Pt. 1-5」は、マスターカセットならではの豊かな風格を持つ響きが序盤から広がります。その濃密な音の綴れ折りは過去最高の興奮をもたらしてくれますが、既発盤でやや淡白に感じられたベース音と後半で入るサックスが芯の入ったサウンドで甦っているのも特徴で、これは既発盤をお持ちの方は是非比べて戴きたいところです。「Have A Cigar」ではギルモアが吹き出してロジャーがボーカルを入り損ない、間をとってから入り直すというこの日ならではの珍しいシーンがお愉しみ戴けますが、これもまた今まで聴けたものよりずっと生々しい音像となっています。曲後半での激しいギターの弾き込みも音楽的な密度の高さを満喫させる迫力のサウンドで現れる事も特筆されるでしょう。「Wish You Were Here」も序盤に出てくるギターの綴れ合いが麗しい音で出てきますが、歌い出しの箇所で出てくる異音(1分16秒と23秒付近。花火?パイロ?プラグの抜ける音?)も割れる事無く拾っており、この演奏のドキュメンタリー性をより高い次元で体験して戴けます。「Shine On...Pt. 6-9」ではマスターに欠落のあった6分24秒でのカット(※テープの反転)を既発盤『DEFINITIVE OAKLAND』から補填して違和感無く仕上げてありますが、これは言われなければまず気付かない完璧な修復となっています。まどろむ様に進行する後半の演奏も各楽器の出音が明瞭なので協奏的な音の対話が更に深く伝わってきますし、ブルージーになる後半でギターが泣きまくるシーンも過去最高の近距離サウンドで追える為、約21分間に渡る演奏タイムを全く感じさせません。「Money」では上下左右に伸びる音域の幅と厚みを更に実感して戴けます。5分00秒付近からギターの音像が遠くなったり近くなったりしますが、これは会場に設置された音群移動装置の効果で、2chながらもこうした音の動きがこれまで以上に解像度の高い音像で追える事も本作のトピックスとなっています。リズムが際立ってくる7分48秒付近からのベースとドラムのアプローチも確かな実体感があり、リズムの運動性が更にダイレクトに耳元へ伝わってくるのも嬉しいところです。そしてこの日最大の聴きどころと言えるのが1973年以来4年振りにして、77年ではこの日唯一の演奏となった「ユージン、斧に気をつけろ」です。弱音から徐々に盛り上げてスクリームで一気に頂点を迎える様子が77年特有の映像的なシーンとして展開し、囚われた何かから音楽が開放されてゆく創意に充ちた興奮が24bit/96khzの力強いマスターサウンドで耳に届けられる興奮を是非御体験戴きたいと思います。・・と、ここまで延々と既発盤との音質差を中心に書いてきましたが、既に音質が優れていた既発盤の先にあるものは何でしょう?音質・音像の更なる向上によって何が見えてくるのでしょうか。それはフロイド・サウンドの特徴とも言うべき音の閉じ方と開け方、言い換えれば音楽の閉じ込め方と解放の仕方がより高いレベルで実感出来るという理解度の深まりです。特にフロイドの音楽は運動性が際立つ箇所とそうでない箇所がマジカルに連動しながら巨大な表現に結びついているものが多いので、劣化の無いマスター音源そのもののサウンドから得られる音楽的構造の再発見と興奮(或いは、それによって見えてくる" 知の恩恵 "と言っても良いでしょう)は計り知れません。今週末は本タイトルで77年伝説のオークランド初日公演に存在した本物の衝撃を是非御体験下さい。 Live at Alameda Coliseum, Oakland, California, USA 9th May 1977 ULTIMATE SOUND(UPGRADE) The 24 bit digital transfer from the original master cassette tapes Disc 1(52:03) 1. Sheep 2. Pigs On The Wing Pt. 1 3. Dogs 4. Pigs On The Wing Pt. 2 5. Pigs (Three Different Ones) Disc 2(56:10) 1. Shine On You Crazy Diamond Pts. 1-5 2. Welcome To The Machine 3. Have A Cigar 4. Wish You Were Here 5. Shine On You Crazy Diamond Pts. 6-9 Disc 3(29:14) Encores 1. Money 2. Us and Them 3. Careful With That Axe, Eugene