1990年ハマースミス・オデオン連続公演の2月6日に関しては「CRITIC'S CHOICE VOL. 1&2」でショーの半分がリリースされていたものですが、今回同時にリリースされる7日に関しては「1990 LONDON / PARIS ANTHOLOGY」というセットにショーの大半が収められていました。このCDセットのメインはやはり定番の8日だったのですが、それに次いで多くの曲が収録されていたのが7日でした。どうせならばこちらもコンプリートに収録すればよかったものを、悲しいかな編集方針の煽りを受けて8日とダブる曲がカットされる形での不完全版となっていたのです。そのあまりにも中途半端な扱い、初めて8日以外のショーがコンプリートにリリース出来た機会を台無しにさせてしまうようなアイテムしか存在しなかったのが残念でなりません。しかし今回、6日と同時にリリースが実現することで遂に7日のショーがコンプリート聞けるようになったのです。90年ハマースミスがあれだけ名演量産の日々であったことを考えると、なおさら「1990 LONDON?」における不遇の扱いに苛立ちを覚えずにはいられません。そんなマニア長年のストレスも遂に解消。こちらもまた6日と同じテーパーによって録音され、今までトレーダー間にもまったく出回っていなかったオーディエンス・マスターでのリリース!この日もまた以前から良好な音質のオーディエンス録音が出回っており、マニアの間に広まっていました(以下、既発音源と称します)。それは他の日と同様にクリアネス抜群のステレオ録音であった一方、やはり音像には距離感がありました。実を言うと従来出回っていた既発音源の中でもっとも音像がオンなバランスを誇ったのが8日の録音であり、最終日らしい充実の演奏内容だけでなく、その音像の近さも8日ばかりがリリースされる要因となっていたのです。今回の音源は既発音源よりも明らかに音像がオンなバランスであり、同時リリースの6日と同じように楽しめる極上音源と呼べるでしょう。この日も「Just Like A Woman」辺りから微妙に音が割れてしまうのですが、先に触れた既発音源でもこの音割れが大なり小なり見受けられますので、やはり当日の会場の出音がアップした結果なのだと推測されます。当然ながらこの問題を6日と同様にアジャスト。結果としてかなり聞きやすい状態となっているのです。そして何よりもトレーダー間で出回っていた既発音源を聞き慣れたマニアには今回の音源が極めて新鮮に響くことは間違いありません。世紀の名演となった8日を翌日に控え、おまけに連続公演ラストスパートということからこの日は力を温存気味…かと思いきや、ディランとバンドは相も変わらず絶好調。いつもならショーの終盤、それこそアンコールに演奏されることの多かった「All Along The Watchtower」をショー序盤に演奏してしまうという大技を炸裂。本当に何の制約もなく、それぞれのショーで気の赴くままにディランが歌い続けるのがハマースミスやパリ、そしてトーズ・プレイスといった1990年初頭ステージの魅力でしょう。おまけに「I'll Be Your Baby Tonight」が続いたことから、奇しくもアルバム「JOHN WESLEY HARDING」から立て続けに演奏(同アルバムでもっとも有名な二曲ですが)されるという珍しい展開。オープニングの「To Be Alone With You」が象徴するように、前日以上に押せ押せムードに駆け抜けた前半から、じっくり歌われるアコースティック・セットはこの日も「The Times They Are A-Changin'」という贅沢な幕開け。おまけにこの時期の同曲ではディランが驚くほど素直な歌い方をしており、原曲の雰囲気を漂わせた演奏が非常に感動的なのです。複数存在するこの日のオーディエンス録音の中には、この曲から早くも音が割れてしまうような音源も存在していたものですが、今回はそのようなことがなくストレスなしにこの素直な名演をじっくりと味わえることでしょう。前日はローリング・サンダー・レビューの名残りと呼べる「Dark As A Dungeon」が珍しく演奏されていましたが、この日は「Tonight I'll Be Staying Here With You」が久々に復活。これもまたローリング・サンダー・レビュー以来となるライブ演奏だったのです。そしてショー全体を通して閃きに溢れたGE・スミスのギター・プレーには思わず聞き惚れてしまうほど。先の「I'll Be Your Baby Tonight」でカントリー調のフレーズを奏でたかと思えば、ショー終盤のヘビー・ブルース「It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry」では文字通りブルージーなフレーズをキメまくり。どの曲でもツボを押さえた弾き方はまったく無駄がない。これぞ職人ギタリストの面目躍如。反対にディランは後の90年代ステージのようなリード・ギターを弾くことは一切なく、かといって大人しくコードを弾いている訳でもなく、所々でハイポジションのコードに切り替えて演奏にアクセントを付けようとしているのがこの時期ならでは。GEがリードを弾く後ろでチャカチャカとなっているのがディランのギターで、このサウンド・バランスも当時の特徴だったのです。確かにクリアーだが、その反面奥まった音像で演奏がぼやけがちだった既発音源と比べ、よりオンな音像のおかげでそうしたバンド・アンサンブルの妙もしっかりと伝わってくる。それ以上にディランが終始テンション高めで歌う様子もリアルに捉えられているのが最高です。この激しさこそ伝説のハマースミス・デイズ1990。前日と共にコンプリートなリリースが待ち望まれていた2月7日のアイテムが独自音源を使用した上、遂に登場します! Live at Hammersmith Odeon, London, UK 7th February 1990 PERFECT SOUND(from Original Masters) Disc 1 (47:12) 1. Intro. 2. To Be Alone With You 3. Most Of The Time 4. All Along The Watchtower 5. I'll Be Your Baby Tonight 6. John Brown 7. Political World 8. Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again 9. The Times They Are A-Changin' 10. Mama, You Been On My Mind 11. It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding) Disc 2 (52:11) 1. Girl From The North Country 2. Forever Young 3. Tonight I'll Be Staying Here With You 4. Everything Is Broken 5. Just Like A Woman 6. It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry 7. Man In The Long Black Coat 8. Like A Rolling Stone 9. It Ain't Me, Babe 10. Highway 61 Revisited Bob Dylan (vocal & guitar), G. E. Smith (guitar), Tony Garnier (bass), Christopher Parker (drums)