ビートルズ解散後のポールは、解散の遠因となったライヴ活動を巡るメンバー間の意見の相違を晴らすべく、新しいバンドを結成してツアーに出ることを決意する。ビートルズ解散後の初めてのステージは1972年である。約2年の雌伏期間を経てのものであった。その間はゲットバック・セッション時から暖めていた新曲をソロアルバムとしてリリース、さらに近い将来ツアーに出ることを前提として、新たなバンドメンバー候補を念頭においたセッション・ミュージシャンのオーディションなど、着実にその歩みを進めていた。 最初のソロアルバム『マッカートニー』は「恋することのもどかしさ」「ジャンク」など魅力的な楽曲に溢れていたが、あくまでダイアモンドの原石的であり、現在のように眩い光を発するまでに昇華されていないものであった。リンゴにさえ「ポールは才能を無駄遣いしている」と評されたくらいである。しかし、ホーム・レコーディングだった『マッカートニー』に続く『ラム』は、完全なバンド・サウンドで占められ、全米ナンバー1シングルも物にし、今では名盤の評価が高い。そして、この『ラム』のレコーディング・メンバーをベースにして新たに結成されたバンドがWINGSであった。ウイングスのファースト・アルバム『WINGS WILD LIFE』がリリースされたのは1971年である。 ポール率いるウイングスが本格的なツアーに出たのは1972年であった。1972年の7月と8月にヨーロッパ各国をツアーバスで移動しながらツアーを行なったのである。セットリストは7月と8月で若干異なることが判明しており、本作に収録されている1972年7月19日フランクフルト公演はファースト・レグに当たる。このファースト・レグの特長はオープニング・ナンバーにある。『WINGS WILD LIFE』収録の「Bip Bop」で開幕するのである。そして続く2曲目がアルバム『RAM』から「Smile Away」である。今では到底考えられないセットリストだが、それゆえにこのレアなセットリストがこの時代のライヴの魅力となっている。 バンドとしての成功を目していたポールは、当初バンド名に自分の名前を冠さず、シンプルに「ウイングス」と呼んでいた。そして、この時点ではまだバンドとしてはアルバム1枚と数枚のシングルを発表したのみ、圧倒的に持ち歌が少なかった。そこでセットリストにはソロ・アルバムで発表した楽曲やカバー曲を組み入れるなど、ファンの認識同様にポールマッカートニーという名前とウイングスというバンドが不可分であるという矛盾を露呈してしまってもいる。またアンコールでは「のっぽのサリー」を演奏しているが、これはウイングスに懐メロ的なビートルズを求めるファンへのポールなりの返答であろう。ビートルズの曲を演奏するには抵抗があるが、しかしカバーであるならと、ビートルズ時代にコンサートの最後を締めくくっていた同じ曲で、ウイングスのコンサ―トも幕を閉じる構成となっている。 このツアーの面白いところは、現在に至るまで未発表の曲も多いことや、この時点ではまだリリースされていない楽曲を数多く演奏している点にある。ウイングスのセカンド・アルバムは『レッド・ローズ・スピードウェイ』だが、これは1973年にリリースされている。しかし1972年のこの時点で既に「マイ・ラヴ」はコンサート終盤の重要な位置で演奏されているのがわかる。また当初2枚組になる予定だった同アルバムが1枚に凝縮される過程で割愛され、後に『COLD CUTS』として出回ることとなった未発表曲も、既にこの時点で新曲としてステージで演奏されているのが興味深いところである。『ラム』や『ワイルド・ライフ』に収録の曲をメインに、さらにこの時点では未発表だった『レッド・ローズ・スピードウェイ』の曲、そして同アルバムに収録される予定であった未発表曲で、この時代のツアーは構成されている。おそらく2度と演奏することはないであろう曲が多く、初期ウイングスの若々しく、かつ荒々しいラフな雰囲気が詰まっているライヴである。 そして注目すべきはその音質である。この音源は本作で初登場となるものであるが、今まで世に出なかったのが信じられないような高音質で収録されている。熱心なマニアはご存知だろうが、このフランクフルト公演は別音源のタイトルがこれまでも存在した。しかし音質が劣る上に不完全収録と、内容的にはいまひとつのものであった。本作は初登場にしてこの高音質、そして初の完全収録と、これ以上ないアドバンテージを持ったタイトルなのである。 またボーナストラックには、1972年8月20アムステルダム公演から「Henry’s Blues」をサウンドボード収録、同日アムステルダムのラジオ出演から「Complain To The Queen」、そして1972年8月21日オランダはハーグという港町の公演からサウンドボード音源で「1882」を、オーディエンス音源で「The Mess」をそれぞれ収録している。この日の「The Mess」はシングル「My Love」のB面として公式リリースされており、本作はそのオーディエンス版である。公式リリースされたものがかなる編集が施してあるのに対し、本作に収録は未編集なため、いかなる編集が成されているのか聴き比べてみるのも一興であろう。そして最後は1974年11月27日ロンドンにおけるロッド・スチュワートのコンサートにポールとリンダの二人が飛び入りして歌った「Mine For Me」を収録している。 1972年7月19日フランクフルト公演を初登場の高音質音源で初の完全収録。さらにボーナストラックでは同年のレア・トラックを収録。 ■トレード間にも出回っていない完全初登場音源!■初登場にしてこの高音質! 素晴らしい!感動した!■ボーナストラックでは同年のレア・トラックを収録! DISC ONE Offenbach Halle, Frankfurt, West Germany 19th JULY 1972 01. Bip Bop 02. Smile Away 03. Give Ireland Back To The Irish 04. 1882 05. I Would Only Smile 06. Blue Moon Of Kentucky 07. The Mes 08. The Best Friend 09. Soily 10. I Am Your Singer 11. Say You Don't Mind 12. Henry's Blues 13. Seaside Woman 14. Wild Life DISC TWO 01. Wild Life 02. My Love (false start) 03. My Love 04. Mary Had A Little Lamb 05. Maybe I'm Amazed 06. Hi Hi Hi 07. Long Tall Sally Concertgebouw, Amsterdam, The Netherlands 20th AUG 1972 08. Henry's Blues "POPSMUK" Amsterdam, The Netherland 20th AUG 1972 09. Complain To The Queen Concertgebouw, The Hague, The Netherlands 21st AUG 1972 10. 1882 11. The Mess Odeon Cinema, London, U.K.27th NOV 1974 12. Mine For Me