サージェントペパーズが発表されたのが1967年6月である。それまでもヒッピー・ムーヴメントの萌芽はあらゆる分野でその蕾を咲かせる兆候は存在したが、本格的にサイケデリックな社会現象として認知される嚆矢となったのは、ビートルズのサージェント・ペパーズに他ならない。また嚆矢であるだけでなく、その時代を象徴するものとして、発表から半世紀を経た現代でも名盤として認識されている。ドラッグの影響下であろうか、暗喩が散りばめられた難解な歌詞、煌びやかで幻想的な曲調。そのどれもが今までとは異なるビートルズの新しい音楽性を感じさせるものであった。ライブ活動の一切を辞しスタジオ・ワークに専念した成果が、このような当時のスタジオ技術の粋を集めたコンセプト・アルバムとして結実したのである。 アルバム・コンセプトとしては、ペパー軍曹率いる架空のバンドがショウを行なうというもので、観衆の喧騒から始まり次々に現れるエンターテイナーたち、名残惜しむかのようなエンディングと厳かなアンコールという流れになっている。しかし必ずしも全ての曲がこのコンセプトに沿って収録されているのではないのは、「Lovely Rita」や「When I’m Sixty Four」「Within You Without You」などを聴いてもわかる。乱暴に言えば冒頭の数曲とリプライズ以降だけがコンセプトに即し、それらに挟まれた楽曲は無関係であるともいえる。コンセプトらしきものを挙げるとしたら、それは全体を覆う曲調、複雑な作業を経た音色にあるのではないだろうか。このような雰囲気は次のマジカルにおいても残り香として感じる事が出来る。敢えて言うなれば、サイケな世界観を具現化し時代に定着させた象徴が、このアルバムのコンセプトと言える。アルバムの発表は1967年6月であるが、レコーディングは1966年12月頃から始められた。最後のツアーが8月なので、3か月の休暇をとった後のレコーディングである。4月から6月にかけて『リボルバー』をレコーディングしている事を考えると、ツアーを挟んでいかにこの時期の創作意欲が高かったを伺い知る事が出来る。本作は、このアルバム『サージェント・ペパーズ』のレコーディング・セッションを収録したタイトルである。本作はそのVol.1である。 【LUCY IN THE SKY WITH DIAMONDS】 さて本作のハイライトのひとつがこのルーシーのセッションであろう。幼いジュリアンの描いた絵からジョンが着想を得て作曲された幻想的な楽曲である。テイク1は別ボーカルでジョンはいくぶん平坦に歌っている。声そのものにエフェクトが既にかけられている事が伺える。サビのコーラス部分はまだ未収録でカラオケになっている。エンディングが注目で、最終的にフェードアウト処理される部分がきちんと最後まで(といってもいい加減な終わり方だが)収録されている。WITH A LITTLE HELPがトラック毎に収録されていたのに対し、ジョンは旧来のレコーディング法を好んでいたようで、何度も歌い直したテイクがこのように残されている。ポールの野太い声でタイトルを繰り返すサビのコーラス部分は結局テイク8まで登場せず、ずっと後にレコーディングされたものであろう。ディスク4トラック20は映画「イエローサブマリン」に登場したジェレミーが歌っているテイクである。 【GETTING BETTER】 テイク1とアナウンスがなされるものの、一度ブレイクダウンした後に仕切り直しでベーシック・トラックが収録されている。ボーカルはまだ遠くに聞こえるのみで楽器をメインとしたトラックである。エレピの音がこれほど効果的に使用されているとは、ボーカルが入っていると中々気付きにくいところである。トラック24もラフなガイドボーカルが聴こえるが音量は小さめ。1967年3月23日に初めてボーカルが録音される。メインはもちろんポールでコーラスはジョンがひとりのようだ。ちなみに2002年のツアーではステージでも披露された。ギターのカッティング・フレーズが印象的な曲であるが、本作で聴くことができる初期のテイクではエレピで演奏されている。ディスク4トラック30では興味深いことに、クラッピングが効果音として収録されている。これは最終的に割愛されたものである。 【FIXING A HOLE】 テイク1は1967年2月9日にレコーディングされている。ボーカルはリリース・バージョンと酷似しているが別テイクである。コーラスは一切入っておらず、ポールの独唱で非常にシンプルな印象を受ける。ディスク5トラック6はリハーサルで、あの特徴あるバロック調の鍵盤をあれやこれやと試している様子が収録されている。まさかサージェント・ペパーズの楽曲以外のスタジオの様子まで聴くことが出来るとは驚きである。そのまま流れで入るテイク3もまた別ボーカルで、冷静に歌っていたテイク1に比べ、こちらは元気いっぱい跳ねるように歌っている。今までのテイクが気に入らなかったのか、1967年2月21日にバッキングトラックを新たに録りなおしている。 【SHE’S LEAVING HOME】 ポールは2002年のツアーにおいてこの曲をライブで演奏している。実際に臨場した人はわかるだろうが、ライブではウィックスの奏でるキーボードとコーラスのみの演奏であった。実際にサージェント・ペパーズに収録のオリジナル・バージョンは弦楽器のみをバックに録音されており、いわゆるポールの独壇場で他のメンバーはコーラスでのみ参加している。デビュー以来全てのプロデュースを担当していたジョージ・マーティンであったが、この曲の弦楽器のスコアはマイク・リーンダーという外部に依頼している。多忙なためしばし待ってくれというマーティンに対し、仕事を急いでいたポールが独断で決めたようだ。マーティンはこの件に関しては明確に不快感を示している。テイク1で気付くのは最終的に割愛されたメロディが残されている点であろう。曲の流れを中断する形で挿入されているので違和感がある部分だが、逆に初めて聴く人にとっては、このようなブレイク・メロディが当初付与されていたとは最も驚く箇所であろう。 【ONE DOWN, SIX TO GO VOL.1】 『サージェント・ペパーズ』が『サージェント・ペパーズ』になるまでに、メンバーの間では『ONE DOWN, SIX TO GO』という仮題で呼ばれていた。本作はそれに因んでタイトリングされている。初登場音源を数多く含むビッグ・プロジェクトで、実にディスク10枚分を費やして網羅している。本作はその前編である。レコーディングの入口となった「ストロベリーフィールズ」のレコーディングから「She’s Leaving Home」までのスタジオ・セッション音源を収録している。今までどこにも収録された事のない数多くの初登場音源を含む究極のセット。既発より長く、今回初めて未編集で収録されるものを含む。 DISC FOUR LUCY IN THE SKY WITH DIAMONDS March, 1967 01. Take 1 02. Take 2 03. Take 3 04. Take 4 05. Take 5 06. Take 6 07. Take 7 piano + tamboura SI 08. Take 8 reduction from Take 7 March 2, 1967 OVERDUB SESSION 09. Bass 10. Lead Guitar 11. John vocal + Paul & John backings 12. John second vocal & backing SI 13. Paul second backing vocal SI 14. John third vocal SI 15. Final Vocal Mix unedited 16. RM11 MULTITRACK 17. Drums 18. Take 6 Monitor Mix 19. Vocal PitchEXTRA 20. RM20 1968 GETTING BETTER March 9, 1967 21. Take 1 Warm Up 22. Take 1 23. Unknown Take breakdown 24. Take 7 w/rough vocal guideMarch 10, 1967 OVERDUBS 25. Drums SI 26. Bass SI 27. Take 12 Tamboura & Guitar SI March 21, 1967 28. Take 14 Mixdown of take 12 March 23, 1967 OVERDUBS 29. First vocal inserts 30. Paul & John vocal track #1 31. Paul & John vocal track #2 DISC FIVE GETTING BETTER March 23, 1967 OVERDUBS MULTITRACKS 01. All vocals 02. Electric Guitars & Congas 03. Electric Pianos & Congas 04. Take 15 Remix FIXING A HOLE February 9, 1967 05. Take 1 Mixdown Take 1 onto Take 2 06. Rehearsal 07. Take 3 Overdubs onto Take 2 08. New Vocal insert SI 09. Second vocal SI 10. All vocals & Backing V SI 11. Electric Guitar SI February 21, 1967 12. New backing track (Harpsichord, bass and drums SI) 13. Unknown RM Mix MULTITRACK 14. Backing Vocals 15. Instrumental SHE’S LEAVING HOME March 17, 1967 16. Take 1 17. Take 6 March 20, 1967 18. Violins (4 track tape) 19. Cellos (4 track tape) Reduction Take 1 into Take 9 20. Vocals Multitrack tape 21. Main Vocals (4 track tape) 22. Backing Vocals SI (4 track tape) 23. Take 9 (4 track tape) 24. RM1 with ADT April 17, 1967 Stereo Remix 6 & Edit -MULTITRACK 25. Harp, Violas and Violins 26. Harp, Cellos & Double Bass 27. RS backing track 28. Vocals onto Edited Take 9









