まずはこのサウンドを聴いてみて下さい。活動末期らしい驚きのオープニング「Caesar's Palace Blues」では、重苦しい序盤から曲の推進力が一気に加速してゆく中盤以降の様子が鮮烈な音で伝わってきます。既発盤をお持ちの方はここでまず聴き比べて戴きたいのですが、この序盤シーンから既発の音圧は高過ぎて、サウンドに奇妙な圧迫感があった事に気付かれると思います。また同時に本作の音質がどれだけナチュラルに演奏音を伝えているかもお感じになるでしょう。イントロが外されて始まる「Danger Money」では、中盤のリズムが動き出す部分(3分22秒付近~)に御注目下さい。3つの楽器が実音をぶつけ合いながら同時進行してゆく響きが、既発盤で聴けたものよりグッと近い音像で生々しく再生されている事に気付かれると思います。「As Long As You Want Me Here」は音の動きが更に詳細に追える様になっています。特に2分34秒付近からの静かでメロウなパート(※4分08秒付近~終曲も同様)では、適度な空間性と透明感を伴う弱音の魅力を捉えた様子に御納得されるでしょう。一方、演奏音全体の魅力が色濃く出ているのが「Night After Night」。とても3人とは思えない密度の高いアンサンブル組み上げの妙技がこの日は特に強く感じられますが、それが直球で伝わってくる収録音となっています。中でも終盤で出てくるシンセのソロ(3分06秒~)では、高らかに鳴り響く旋律とバックのリズムという音の対比がそのままミドル・レンジからハイ・レンジにかけての力強い響きとなって出力されますので、この伸びのある音像にも御注目戴きたいと思います。続く「Alaska」も本作大きな聴き処です。この曲のキモとも言える中間部の展開(2分45秒付近~)は、既発盤を一蹴するダイナミックな音像で鮮烈に襲い掛かってくるうえ、各楽器から出る音の分離感も素晴らしいものがあります。そしてここから活動末期の特徴的な展開として「Nothing To Lose」が切れ目無く繋がってゆきますが、ここではウエットンのコブシを効かせた熱唱にまず耳を奪われるでしょう。またヴァイオリン・ソロでの揺らめく音色と響きが、これほど透明感と質感を伴う音で記録されたものは過去に無かったと思います。このソロ中やエディが楽器を持ち替える箇所の繋ぎもこの日はベースが大変珍しい動きで繋いでいて聴き処のひとつとなっていますが、このベースの響きと動きも鮮明な音で再生される点も特筆されるでしょう。Disc-2冒頭のこの日のインプロは、その硬質でドスの効いたベースが際立つ内容です。ただ、確かにこの日のインプロを牽引しているのはウエットンですが、スリリングな展開の中に荒々しく対話を仕掛けてくる他の二人のリズムと音階の選択眼も際立つシーンとなっています。また細かく動く音もよく聴こえるため、タフな曲想の中に微細構造も併せ持った多面的なインプロである事にも改めて気付かされるでしょう。「Nostalgia」は既発盤同様に00分42秒付近で一瞬カットが入りますが、音色の響き方は既発盤とは比較にならないほど優れているのも特徴です。ヤマハCS-80で組み上げた独自のサウンドに載せて艶やかに鳴り響くヴァイオリンという音の対話が、非常に高い透明感を伴って耳に届く事に感銘を受けるでしょう。「Presto Vivace」も各楽器の細かい音の動きがつぶさに追える様子に驚かれると思います。この曲は派手に目立つ音が無いので聴き比べがし易く、既発盤をお持ちの方は是非音像の違い比べて戴きたく思います。全体的に分離が悪く潰れていた音が本作ではくっきりと際立ち、奥まって聴き辛かったベース音も程好く聴こえ、複数の音が同時に進行する響きの豊かさが色濃く感じられる筈です。そしてそこから立ち上がってゆく驚きの「In The Dead Of Night」も、スタジオ版にかなり近い形で演奏されるこの時期特有の凝縮感があり、その濃密なアンサンブルが粒立ちの良い優れた音像で飛び出してきます。「The Only Thing She Needs」は中盤のヴァイオリン・ソロでピチカートを多用するシーンがあり、その合間にもスピーディなアンサンブルパートがあるという楽曲の可能性を更に広げるアプローチが盛り込まれています。その高い緊張感を伴う濃密なアンサンブルがロー・レンジからハイ・レンジに至るまで鮮烈な音で聴覚をくすぐってくる感覚は特別な喜びを与えてくれるでしょう。そして最後は「Waiting For You」。U.K.活動最末期に残されたこの3rdアルバム用の歌詞付き未発表曲をどう聴くかは聴き手によって様々です。人によっては「ポップ路線に走ったな」という意見もあるでしょう。しかしメロディラインが外へ外へと向かうポップな音となっているのに対し、楽曲は間もなく訪れる80年代に抗う様にグッとそこに留まるような、複雑さを残したタフな構成となっている点は見逃せないと思います。勿論この曲も解像度の高い鮮烈な音で収録されていますので研究素材の音源としても第一級のものとしてお愉しみ戴けます。そして同時に、ダイナミックで広がりのあるその収録音の中に活動最末期の70年代U.K.がどれだけ訴える力のある音楽をやっていたかが垣間見えるという、本タイトルを象徴する一曲ともなっています。遂に登場した1979年12月9日ハンブルグ公演のアップグレード版は、全てのプログレ・ファンの話題をさらうことでしょう。 Live at Audimax, Hamburg, Germany 9th December 1979 TRULY AMAZING/PERFECT SOUND(UPGRADE) Danger Money European Tour Disc 1(43:39) 1. Intro 2. Caesar's Palace Blues 3. Danger Money 4. As Long As You Want Me Here 5. Thirty Years 6. Drum Solo 7. Night After Night 8. Alaska 9. Nothing To Lose Disc 2(45:12) 1. Spanish Tune (Bass Solo) 2. Rendezvous 6:02 3. Violin Solo 4. Nostalgia 5. Presto Vivace 6. In The Dead Of Night 7. The Only Thing She Needs 8. Waiting For You John Wetton - Bass, Vocal Eddie Jobson - Keyboards, Electric Violin Terry Bozzio - Drums, Percussion